第三話








「よしっ!!親切終わりっ!!!」
彼女はホースで水をかけるのをやめた。
「これが親切だと言うか。おかげで泥だらけだ。」

起き上がると、
土と水遊びをして転げまわった
子供か犬のようになった。

真っ白いシャツもすでに、
清潔さのかけらも無い。

「わかってるだろうけど、
水はすごく貴重なんだから!!

いや、もうホント、
ぜんぜんこんなことに使っていいものじゃ
ないんだからなっ!!」


自分を納得させるように、
彼女は水の貴重性について説いた。


 
その顔を見て、
「・・・おまえ、貴重な水を使うことが
最大級の親切だと思ってる・・・な?」
とつぶやくと、

「あ、あたりまえだっ!!」

との返答が返ってきた。

「・・・なんか、間違ってないか?」

と、彼は不満げである。
いや、ホント間違ってると、彼は思うのである。


確かに水は重要だ。




                                 
特に気温40度以上の朝が
冬でもざらに続くような土地では、
男だって多少躊躇する。

灼熱の太陽と、
反射する白い砂の上で
ひと時は観光として訪れても、
害にはならない。


水が必需品だということは、
この巨大グランドから、
二時間もジープを飛ばして、
町へ行かねばならないことからも、明白だ。


食べ物はなく、育てられる食物も無く、
さらに女が笑顔になりそうな花や
服や、甘い菓子、
あからさまに太りそうな食事

そんなものも、何一つ見当たりはしないのだ。

彼の周りを取り巻く女達は
一分もせず音を上げるだろう。

彼女達は、彼にしだれかかり、
猫なで声でこう言う。

「こんなとこいるのヤーダぁ〜。
ほこりっぽいしー。
あっ、もー爪折れちゃったあ〜。
昨日三時間もかけて塗ってもらったのにぃ〜」」


な場所なのである。





だが、それならば・・・



「水が貴重なのはわかる。
けどな・・・こんな、

何もないところでお前、
いつまでダダこねてるつもりだ?」


なぜ、いつまでも、
こんな閑散とした土地に、
みょうちくりんな船型の家といっしょに暮らしているのか。



「いやなら・・・さっさと帰ればいいだろ。」




彼女はいつも、この話題になると彼の視線を避けた。


こんな辺鄙な土地に、
とどまる事を望んでいる妙な女。

たとえそれが、血縁のいなくなった
彼女が持つ
唯一つの財産であっても、である。



そして彼もまた、視線を避けねばならないと、願っていた。

彼女の瞳を見つめたなら、

きっと、こんな場所だから・・・




今まで気づいてきた関係を壊すようなことも
簡単にしてしまえそうだった。




「・・・ま、迎えを呼びたいなら、
中に無線がある。

使えばいいから。」
そう言って、ホースを投げ捨てた彼女は、
すたすたと例の怪しい家へと向かっていった。

彼は一つため息をついてから、

「俺は行かないぞ。契約だからな。」

と、彼女の後姿へ、期待の無い声をかけた。



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