第二話
「…はー、500メートルも引きずった日にゃあ、
おまえ、人の顔変わるぞ!」
彼女の銀色の家の前で、
男は地面につっぷしたまま
さめざめと語った。
「・・・あのねー、んなところにいるとアレだよ?
日射病になるよ?」
声が小さくなったところを見ると、
多少の罪悪感はあるようだった。
直視できずに遠くを見つめている。
そういう時の彼女の反応が、
彼は好きだった。
男はしばらく寝転んでいることにした。
もう少ししていると、
面白い反応が見れそうだからだ。
しかし、しばらく彼女から言葉が無いので、
そっと顔をあげた彼の目の前に飛び込んできたのは、
全体が銀色に光る船だった。
荒野のど真ん中に、
バカみたいに光る銀の船。
その前に仁王立ちの彼女は、
ただ遠くを見つめている。
これからどうしたものか、と迷っているようにも見えた。

彼はいつも思うのだが、
このだだっぴろい荒野は
この圧倒的な存在感の船(彼女の家)のせいで
妙に海原のような気分を、彼に思い起こさせる。
かつてこの荒野には海があったのか?
なんて、考古学的な考えすら
彼の脳裏を掠めるのだった。
何故船なのか、なんてことを昔彼は彼女に聞いたが
「単にこの船が好きだったから」
との答えが返ってきた。
単純明快である。
実際宇宙船というものがあるならば、
この家は、「愛嬌のある宇宙船」みたいなかんじだった。

しかし、このでたらめな家の見どころは、
部分部分がつぎはぎのようになっていることだった。
前方はバスの前の部分をとってきている。
中に入るとハンドルすらついているくらいだ。
彼女はもっぱら、このバスの大きな窓が
夜空を広く見られるというので気に入っている。
風のない日の夜は、外で眠るが
嵐の日は、この大きな窓のそばで眠っている。

無言で家の内部を思い出していると、
さすがに動揺したのか
彼女はぶつぶつと言い訳をはじめた。
「…だいたいお前が悪いんだよ。
そもそもあれだぞ!こんな辺鄙なところに来るから。
お坊ちゃんで社チョーのくせにさ。」
おもしろくなって彼は
しばらくそのままでいることにした。
さらに妙なぼやきが聞けそうだ。

「…そんななまっちょろい服着てさ、
高いんだろーに、置いてきちゃったよ背広。
風に飛ばされたぞ。きっと」
…背広のことなんか気にしてるよ…この女は。
彼は思わず笑みをこぼす。
こういう人間が会社にはいないので、
なんだか楽しいらしかった。
「ふつー、俺のこと心配するだろ。冷たい奴。」
しかし、この言葉は思いのほか
彼女に響いたらしかった。

無言でホースを引きずってくると、彼女は
彼にざばざばと水をかけ始めた。
「わかったよ。好きなだけそうしてろ。
日射病予防に水かけとくから。」
「…あのな、そういう親切をするんじゃなくて…。」
もっと女ならこう、
『きゃー、たいへーん、人工呼吸しなくちゃー(?)』
だろうに…。
と彼は思うのだった。
しかし、そういう女は大抵
彼の地位とか遺産とかが欲しいのであって
彼自体は付属品としか見ていないというのが
もっぱら彼の結論である。
そういう意味では、そばにいるこの女は
ちょっとばかり特殊だった。
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