第一話


バタバタと例のはばたきが聴こえ始めると
構えた表情で、彼女は空を見上げた。






















一機のヘリが五月蝿い音をたてていた。

ーまたか。

と、彼女は毎回思うことにしている。
砂埃は撒き散らされ、
せっかく磨いた銀色の我が家が、
再び黄色い砂まみれになるのが
いやだからだ。




ヘリから降り立った男は
まだ20代前半くらいだろうか。
比較的黒っぽいジャケットを羽織り、
きちんと盛装している。

おもむろにサングラスを外すと、
無表情で胸のポケットに押し込んだ。

かわりに、腹部横あたりにある
別のポケットから
数枚のカードを取り出した。













そしてカードは、目の前に仁王立ちの
彼女に手渡された。
カードにはさまざまな絵や景色が印刷されている。

彼女は、男からそれを略奪まがいにぶんどり、
一枚一枚丁寧に眺め始めた。

その間一切の言葉は無用である。

真剣にカードを見て厳選している女と
ただ、ぼんやりとあたりの景色をみわたす男。
男は、ネクタイを緩めずにただ待った。

それが二人の暗黙の了解でもあった。









「これ、いいね。」
彼女は一枚の写真を取り出し、
ゆっくりと眺めた。

「アルティアのブルーヘブンだ。
いい色をした湖だろう。
なかなか行くのが難しかったぞ。」

男はその風景を思い出しながら、
彼女の次の言葉を、探るように待った。




すると、懐かしそうに彼女は
いつものお決まりの言葉を口にした。

「うん、昔に行ったことがある。父さんと。」

微かに微笑を見せる彼女はしかし、
どこか寂しげでもある。

毎回同じ言葉を聞く彼は、
まだか…と思い、
思い出に浸る彼女を横から眺めた。

そして、できるだけはっきりと
彼女の浸る思い出から
呼び覚まさせる言葉を口にした。









「本当にお前はオヤジっこだな!
さっさと卒業しろ!」


すると、かーっと彼女の顔が見る見る赤くなり
いつもの不機嫌な顔に戻っていく。
彼はそれを見て、
寂しいような嬉しいような、妙な気分を味わうことになる。
それも、覚悟の上ではあったが・・・。

「うるさい!お前こそ毎回毎回
何の用でここに来てんだ!帰れっ!!」

いつものごとく口げんかが始まるのである。



そうなれば、止まらないのがこの目の前の彼女である。
男はふふん、と鼻を鳴らして
「してやったり」と、にやにや笑って見せた。

「お前その写真を気に入ったんだろ?
なら、それと交換で一泊二日の契約だ。
違うか?」

男は草々に、暑苦しいジャケットを脱ぐと
シャツを締め付けるネクタイを外しはじめた。

しかも見せ付けるように
脱ぎ始めるからたまらない。

「その眼をやめろっ!もう脱ぐなっ!!」

彼のネクタイを引っ掴むと、
男はこうのたまった。

「へえ、脱がせてくれるとはサービスがいいな。」

聞いた彼女のアドレナリン値は
いまや最高潮である。

「・・・殴られたいか?」
「どうぞ。」

男は飄々と楽しげな笑みを見せた。
二人にとっては、いや、少なくとも彼にとっては
いつものお決まりの儀式のようなものだ。




次の瞬間、男は盛大にぶっ倒れると、
彼女は、また自分の腕力が強くなったと
拳を見つめて気合をいれた。

「…鼻折れたか…」

と男はつぶやいたが、彼女は

「鼻血程度で済んだだろ。」

と平然と返した。

男の足を掴むと、「あーめんどくさいなあ」
と愚痴をこぼしながら引きずっていく。

「…いたいぞ。顔が焼ける。こすれる…」
「自業自得だ。運んでもらえるだけ
ありがたいと思うんだな。」

ずるずると引きずられながら、彼は横目で彼女を見た。








生き生きと、楽しそうに微笑んでいるのが見える。




男は引きずられながら、そっと悟られないように
笑みを見せた。

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